分散分析(ANOVA)の結果の書き方

2020年6月1日

ANOVAは統計的仮説検定の中でも比較的よく使われる手法で、卒論などに利用する方も多いと思います。SPSSやRといったソフト以外にも、最近ではExcelやWEB上で実行できるツールも広く準備されています。それらツールの使い方については多くの紹介記事がありますので、ここでは論文に結果を書く際にどのようにすればよいか、文例をいくつか示そうと思います。

一要因のANOVAを使う条件の例

まずは要因が一つの場合(例えば提案手法と既存手法でアンケート結果を比較する場合)でかつ同じ被験者で繰り返し実験した場合、つまり被験者内計画における一要因分散分析を行う場合の例を示します。利用する条件としては、例えば:

  • 被験者に対して三つ以上の条件で実験を行い、それぞれの実験で行ったアンケート結果の差を見たい時
  • あるデータセットに対して三つ以上のアルゴリズムで精度を検証し、その間に統計的な差が有るかを知りたいとき
  • 被験者に対して3種類以上のテストを出して、その正答率を比較したいとき

といった事例が考えられます。対応のあるt検定とほぼ同じ条件例ですが、ANOVAとt検定で大きく異なるのは扱える群の数です。アンケート結果等の分析以外にも、様々な機械学習の性能評価を行う際には利用されている方も多いと思います.これは,t検定は二つの群を対象としていましたが、ANOVAは三つ以上の群を対象に分析を行う際に利用できることから、評価にも都合が良いのでしょう。もちろん,三つ以上ある場合には事後の比較を通じてどの条件とどの条件の間に差が有るかを調べることもも必要になっており,有名な手法としてはBonferroniの方法などが利用されていますね。ちなみに二群しかない場合、t検定とANOVAのどっちを使えばよいかというと、正直どちらでも同じです。管理者はそういった場合にt検定を使いますが、査読者から指摘を受けたり、文面的にその方が良さそうだと判断した場合には、その際に都合が良いと思われる方法を使って結果を記載していきます。

対応のある手法を利用する際にすべからく気を付けるべき点として、同じ被験者や同じデータセットに対して複数回の異なる条件を用いて比較する場合には順序効果を考える必要があります。特に条件が三つ以上になると、被験者がその刺激に慣れてしまうリスクだけではなく、多くの順番を考慮した実験計画を立てる必要があり、被験者の募集に影響が出ることも十分に考えられます.

一要因ANOVAについての文例

各被験者にA/B二つの条件で実験を行い、各条件の施行後に取ったアンケート結果に差が有るかどうかを調べるために被験者内計画の一要因分散分析を行った状況を想定します。自由度やF値については仮の値なので、適宜数字を入れ替えてください。

有意差がある場合

アンケート結果に対して被験者内計画の一要因分散分析を行った結果,条件間に有意な差が得られた(F(1,XX)=X.XXX, p=0.021, partial η2=0.0XX). すなわち提案手法を用いることで,アンケート結果が既存手法よりも有意に増加することが示された.

有意傾向がある場合

アンケート結果に対して被験者内計画の一要因内分散分析を行った結果,条件間に有意傾向が得られた(F(1,XX)=X.XXX, p=0.085, partial η2=0.0XX).

(注):有意傾向は扱いが微妙な所があるので、有意差なしとして記述した方が良い場合も多いです。

有意差がない場合

アンケート結果に対して被験者内計画の一要因分散分析を行った結果,条件間に有意な差は得られなかった(F(1,XX)=X.XXX, p=0.401, partial η2=0.0XX).

(注):有意差が無いことは、差が無いことを意味しません。

二要因のANOVAを使う条件の例

次は、二要因分散分析を行う際の文例をいくつか示します。要因が二つ以上の場合、それらをどのように被験者に割り当てるかによって被験者内・被験者間・混合のいずれになるかを考慮する必要がありますが、ここでは被験者内実験、すなわち同じ被験者で繰り返して要因の影響を検証する場合を示します。条件の例としては、例えば:

  • 被験者に対して二つの異なる要因の組み合わせ(例えば音声有り・無しと映像有り・無し)で実験を行い、要因ごとにアンケート結果の差を見たい時

といった事例が考えられます。この場合、四群(音声有り・映像有り,音声無し・映像無し,音声有り・映像無し,音声無し・映像無し)での一要因被験者内ANOVAでもよさそうですが、ある要因内で対となる項目があるのであれば、このように二要因のANOVAを使うのが普通です。群の数は増えても分析は可能ですが、数が多すぎると解釈が複雑になりますし、精々二~三群にとどめておくのが良いでしょう。また、要因数が多いと順序効果を防ぐための組み合わせ(どの順番で実験を行うか)の数も多くなるので、実験計画を立てるうえで参考にしてください。

二要因の被験者内ANOVAについての文例

要因名は、映像要因(あり・なし)および音声要因(あり・なし)と仮に設定します。音声付き動画を利用した実験で、視覚刺激および聴覚刺激の有無でアンケート結果の比較を行ったものを想定してみてください。交互作用に有意差があった場合の事後検定には、p値を補正するBonferroniの方法を利用しています。下位検定において有意差が得られなかったものは記述を省いていますが、査読者によっては記述を求められる場合もあるので、その場合はp値も含め記載しましょう。なお,有意傾向のみの事例は省いています。

全ての要因及び交互作用に有意差がある場合(下位検定において一部有意差があった場合)

アンケート結果に対して被験者内計画の二要因分散分析を行った結果,映像要因に有意差(F(1,XX)=X.XXX, p=0.021, partial η2=0.0XX),音声要因に有意差(F(1,XX)=X.XXX, p=0.021, partial η2=0.0XX),および交互作用に有意差(F(1,XX)=X.XXX, p=0.021, partial η2=0.0XX)が得られた. 下位検定を行った結果,映像要因がありの場合において,音声要因のあり・なしの間に有意差が得られた(あり>なし,p=0.010).また,音声要因がありの場合において,映像要因のあり・なしの間に有意差が得られた(あり>なし,p=0.020).

片方の要因にのみ有意差があり、交互作用には有意差が無かった場合

アンケート結果に対して被験者内計画の二要因分散分析を行った結果,映像要因に有意差(F(1,XX)=X.XXX, p=0.021, partial η2=0.0XX)が得られた.音声要因(F(1,XX)=X.XXX, p=0.515, partial η2=0.0XX),および交互作用に有意差(F(1,XX)=X.XXX, p=0.332, partial η2=0.0XX)は得られなかった.

有意差がない場合

アンケート結果に対して被験者内計画の二要因分散分析を行った結果,映像要因(F(1,XX)=X.XXX, p=0.621, partial η2=0.0XX),音声要因(F(1,XX)=X.XXX, p=0.733, partial η2=0.0XX),および交互作用に有意差(F(1,XX)=X.XXX, p=0.233, partial η2=0.0XX)のいずれにおいても有意差は得られなかった.

三要因のANOVAを使う条件の例

ここでは,要因が三つの場合におけるANOVAの書き方について記載します。被験者内・間・混合計画の違いですが、論文へ書く際にはさほど変わりがないことに気が付いてしまったので、ここでは良くある混合計画(被験者内で二要因、被験者間で一要因)の場合を想定します。たとえば音声付き動画を利用した実験で、視覚刺激および聴覚刺激の有無でアンケートを収集し、その差を性別も考慮して検定を行う場合です。

上記のように三要因で各二条件の場合、八つもの組み合わせが発生します。特に交互作用に有意差が出てきた場合、記述がきわめて複雑になります。あまり複雑な実験計画はそもそも実験設計に問題がある場合も多いので、できるだけ複雑な組み合わせによる実験は避けたいところですが、どうしても複雑になる場合もあるので、記載方法は押さえておきましょう。

交互作用に有意差があった場合の下位検定(多重比較)には、過去の検定と同じく、p値を補正するBonferroniの方法を利用しています。記述内容が増えてしまうための下位検定や多重比較において有意差が得られなかったものは記述を省いていますが、査読者によっては記述を求められる場合もあるので、その場合はあきらめてp値も含め記載しましょう。

また、二次の交互作用および一次の交互作用いずれにおいても有意差が出た場合で、特に同じ要因に関する比較の結果をどこまで書くべきかは議論がわかれるところです。管理者は煩雑になっても全て記載する方針ですが、二次の交互作用の下位検定に関する結果の解釈は、一次の交互作用の結果の解釈を包含することもあるので、二次のみ記載されていれば良いという考えもあるそうです。論文誌のページ数の規定によってはまず二次の結果のみ記載し、査読者に指摘された場合には一次の結果も追記するという方針も一応ありえるでしょう。

全ての要因及び二次の交互作用に有意差がある場合

アンケート結果に対して混合計画の三要因分散分析を行った結果,映像要因に有意差(F(1,XX)=X.XXX, p=0.021, partial η2=0.0XX),音声要因に有意差(F(1,XX)=X.XXX, p=0.021, partial η2=0.0XX),性別要因(F(1,XX)=X.XXX, p=0.021, partial η2=0.0XX),および二次の交互作用に有意差(F(1,XX)=X.XXX, p=0.021, partial η2=0.0XX)が得られた. 映像要因と音声要因の一次の交互作用(F(1,XX)=X.XXX, p=0.821, partial η2=0.0XX),映像要因と性別要因の一次の交互作用(F(1,XX)=X.XXX, p=0.445, partial η2=0.0XX),および音声要因と性別要因の一次の交互作用(F(1,XX)=X.XXX, p=0.323, partial η2=0.0XX)には有意差が得られなかった.

下位検定を行った結果,映像要因があり,かつ音声要因がありの場合において,性別要因の男性・女性の間に有意差が得られた(女性>男性,p=0.010).

一部の,一次の交互作用にのみ有意差がある場合

アンケート結果に対して混合計画の三要因分散分析を行った結果,映像要因と音声要因の一次の交互作用にのみ有意差(F(1,XX)=X.XXX, p=0.021, partial η2=0.0XX)が得られた.映像要因(F(1,XX)=X.XXX, p=0.445, partial η2=0.0XX),音声要因(F(1,XX)=X.XXX, p=0.445, partial η2=0.0XX),性別要因(F(1,XX)=X.XXX, p=0.445, partial η2=0.0XX),二次の交互作用(F(1,XX)=X.XXX, p=0.445, partial η2=0.0XX),映像要因と性別要因の一次の交互作用(F(1,XX)=X.XXX, p=0.445, partial η2=0.0XX),および音声要因と性別要因の一次の交互作用(F(1,XX)=X.XXX, p=0.323, partial η2=0.0XX)には有意差が得られなかった.

下位検定を行った結果,映像要因がありの場合において,音声要因のあり・なしの間に有意差が得られた(あり>なし,p=0.010).また,音声要因がありの場合において,映像要因のあり・なしの間に有意差が得られた(あり>なし,p=0.020).

交互作用に有意差があった場合の下位検定(多重比較)には、過去の検定と同じく、p値を補正するBonferroniの方法を利用しています。記述内容が増えてしまうための下位検定や多重比較において有意差が得られなかったものは記述を省いていますが、査読者によっては記述を求められる場合もあるので、その場合はあきらめてp値も含め記載しましょう。

また、二次の交互作用および一次の交互作用いずれにおいても有意差が出た場合で、特に同じ要因に関する比較の結果をどこまで書くべきかは議論がわかれるところです。管理者は煩雑になっても全て記載する方針ですが、二次の交互作用の下位検定比較に関する結果の解釈は、一次の交互作用の結果の解釈を包含することもあるので、二次のみ記載されていれば良いという考えもあるそうです。論文誌のページ数の規定によってはまず二次の結果のみ記載し、査読者に指摘された場合には一次の結果も追記するという方針も一応ありえるでしょう。

全ての要因及び二次の交互作用に有意差がある場合

アンケート結果に対して混合計画の三要因分散分析を行った結果,映像要因に有意差(F(1,XX)=X.XXX, p=0.021, partial η2=0.0XX),音声要因に有意差(F(1,XX)=X.XXX, p=0.021, partial η2=0.0XX),性別要因(F(1,XX)=X.XXX, p=0.021, partial η2=0.0XX),および二次の交互作用に有意差(F(1,XX)=X.XXX, p=0.021, partial η2=0.0XX)が得られた. 映像要因と音声要因の一次の交互作用(F(1,XX)=X.XXX, p=0.821, partial η2=0.0XX),映像要因と性別要因の一次の交互作用(F(1,XX)=X.XXX, p=0.445, partial η2=0.0XX),および音声要因と性別要因の一次の交互作用(F(1,XX)=X.XXX, p=0.323, partial η2=0.0XX)には有意差が得られなかった.

下位検定を行った結果,映像要因があり,かつ音声要因がありの場合において,性別要因の男性・女性の間に有意差が得られた(女性>男性,p=0.010).

一部の,一次の交互作用にのみ有意差がある場合

アンケート結果に対して混合計画の三要因分散分析を行った結果,映像要因と音声要因の一次の交互作用にのみ有意差(F(1,XX)=X.XXX, p=0.021, partial η2=0.0XX)が得られた.映像要因(F(1,XX)=X.XXX, p=0.445, partial η2=0.0XX),音声要因(F(1,XX)=X.XXX, p=0.445, partial η2=0.0XX),性別要因(F(1,XX)=X.XXX, p=0.445, partial η2=0.0XX),二次の交互作用(F(1,XX)=X.XXX, p=0.445, partial η2=0.0XX),映像要因と性別要因の一次の交互作用(F(1,XX)=X.XXX, p=0.445, partial η2=0.0XX),および音声要因と性別要因の一次の交互作用(F(1,XX)=X.XXX, p=0.323, partial η2=0.0XX)には有意差が得られなかった.

下位検定を行った結果,映像要因がありの場合において,音声要因のあり・なしの間に有意差が得られた(あり>なし,p=0.010).また,音声要因がありの場合において,映像要因のあり・なしの間に有意差が得られた(あり>なし,p=0.020).